コットンキャンディ

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玄関まで来ると、やっぱり彼のもとへ行こうか少し悩んだ。 それでもやはり気になる気持ちが大きかったため、靴を履き外に出ようと玄関のノブに手をかけたとき、届かなくなる。 代わりに向かい側から扉が開き、彼が入ってきた。 それは待っていた優君の姿だ。 「……帰ろうとしてた?」 彼は小さな声で呟くように言うから、私は首を左右に振って“違う”と伝えた。   「よかった……」 彼はより小さく言ったが、その言葉が聞き間違いでないといい。 「おいで」 彼は私の背を二度優しくポンポンという風に叩くと、中へ誘った。  彼の“おいで”が懐かしく、泣きそうになる。 再び私は同じ場所に腰をおろす。さすがに泣くわけにはいかないので、下唇を噛み締めて、膝の上に強く握り拳を作っていた。   「疲れたでしょ、何か飲む?」 私は早速話をするつもりでいたが、彼に誘われて頷いた。 私も落ち着いたほうがいいと思った。 「お茶でいい?」 「ありがとうございます」 「うん」 彼は小さく笑うと、キッチンに立ち電気ケトルに冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を注ぎ始めた。   その後ろ姿を見つめていると、見慣れない赤い鍋が視界の端に映り、私はそれをまじまじと見つめた。 きっと、彼女のものだ。 そうとしか思えないものに、私はますます手に力を入れる。 もう、優君にご飯を作る人は私ではないのだ。
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