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「ちょっと、胡桃ちゃん、折れちゃうよ」
「あ、はい、すみません……!」
“cotton candy”を作ると決めた翌日。
私は朝から時間を見つけてはブーケ作りに精を出す。
カスミ草は繊細で折れやすい。
激しく触ると壊れてしまうため、優しく丁寧に扱わなければならない。
私は店長の指摘に持ち手を下に握り変えた。
「気を付けてね、彼に渡すために綺麗に作らなくちゃ」
「はい」
店長は作業の合間、私のもとへやってきて、確認してくれている。
私が彼の言葉に意気込むと、店長が「懐かしいな、なんか」と言った。
「懐かしい……?」
「うん。胡桃ちゃんがここで働きはじめの頃、よくこうして教えたよね」
たしかにそれはそう。私はよく、仕事の合間や終業後に彼に色々教えてもらった。
「……はい。たくさん教えてもらいました」
しかし、最近は一から彼に教わることはない。
「うん……。胡桃ちゃん頑張り屋さんだから、結構厳しいこと言っても付いてきてくれたよね……」
「そうでしたっけ?店長、優しかったですよ」
「いやいや、そんなことはないよ。現に今まで何人も辞めてるから」
店長はしみじみ思い出すように言う。
たしかにきつめに指導されたこともあったが、それは上手くなってほしいからだ。
もしかすると私が鈍いのもあるかもしれないが、厳しいことを言われてもちゃんとフォローしてくれていたのを私は知っている。
きっと辞めた人はそれに、気づかなかっただけだと思う。
「僕はもったいないことをしたんだな、ほんと」
「……え?」
「ううん、何でも」
店長の言葉はよくわからなかったけれど、褒められたのはたしか。
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