コットンキャンディ

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「あ、お客様がいらっしゃったよ……胡桃ちゃん作ってていいよ。お一人みたいだから」 私は店内の隅のラティスで仕切られたスペースにいる。 お客の気配に店長は私に気遣い、お客のもとへ行った。 しかし、すぐに「胡桃ちゃんにお客様だったよ」と、私を呼んだ。 私は花を傷めぬよう、そっとブーケを立て掛け、私自身も立ち上がり、店内を覗いた。 そこには優奈さんがいた。 私は慌てて店に出てブーケを大切にキーパーに仕舞うと、彼女のもとへ駆けつける。 「こんにちは、いらっしゃいませ……!」 今日の彼女もバニラの甘い香りがする。 「こんにちは、胡桃ちゃん」 彼女は私に優しい笑顔を向けて「いよいよ明日行くのよね」と言った。 それから彼女は店の中を確認するように見渡すと、「はい……」と言って、私に薄黄色の小花模様が描かれた封筒を手渡した。 「え……?何ですか、これ……」 「私と夫からのおはなむけ。少しだけど……」 「え、そ、そんな……」 たしかにお金が入ってそうな厚みだが、私は彼女にもらえる立場ではない。 私が戸惑っていると、彼女は私の手にあるそれをエプロンのポケットに入れた。 「優奈さん……」 「優斗に会ってきて。それから私たちにこれでお土産を買ってきてちょうだい」 「……」 きっと土産を買うには多すぎる金額だろう。私は彼女の気遣いに泣きそうになる。 「優斗がシンガポールに行ってしまったから、仲直りするのにもお金かかっちゃうでしょう。だから少しだけ胡桃ちゃんのお手伝い」 「……優奈さん」 「それと、お花ください。テーブルに飾ったお花すっかり枯れちゃったの」 彼女は私に気を遣わせぬよう、そう言った。 「あ、はい……。あ、あの……ありがとうございます」 「ううん、本当に少しよ」 「いえ……ありがとうございました。頑張ります、私」 「うん。頑張ってね」 優奈さんも私を応援してくれている。彼女の温かさが、明日への勇気に繋がりそう。
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