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優奈さんは私が選んだ花を手にすると「気を付けてね」と言って、店を出た。
ちょうど優奈さんが店を出るときと、治人さんが市場から戻ってきた時間が重なる。
すると彼は、彼女を見て目をハートにした。
「胡桃ちゃん、誰?あの人」
治人さんのいつもの悪い病気が発症した。優奈さんを見送る私に彼が小声でそう言った。
相変わらずミーハーである。
「彼のお姉さんです」
「へぇ……綺麗な人だね」
治人さんは優奈さんの後ろ姿を見つめる。すると、彼女が私を振り返り、手を振ってくれたので私は振り返した。
それに、治人さんも……
「……治人さん、何で手を振ってるんですか?」
「いや、彼女が俺に手を振ったから」
「……私にですよ」
私が苦笑いをすると、彼は笑って「知ってるよ」と言った。
「なんだ、わかっててよかったです」
「本当に思ってたら、俺ヤバイ奴だろ」
その発言がおかしくて、私は笑う。
「胡桃ちゃん、その笑顔だぞ」
「……え?」
「最近はよく怖い顔になってるから」
私はそれにハッとして、自身の両頬を手で挟んだ。
たぶんそれは緊張のせい。
彼に会うのは、やっぱり怖い。
「胡桃ちゃんは笑顔が可愛いよ」
「……ありがとうございます」
彼に会うのに怖い顔をしていてはダメだ。
治人さんは奔放のようで、人をよく見ている。
私が無理矢理な笑顔を作り、そう言うと彼は私の頭をぐしゃぐしゃという風に撫でた。
「ブーケは順調?」
「はい」
「肩は凝ってないか?俺はあれでよく肩が凝るけど」
「大丈夫ですよ」
私はそれからブーケ作りを再開させる前に、治人さんに作りかけのブーケを見せた。
彼は「綺麗になりそうじゃん」と言って、褒めるので自信がつく。
彼に綺麗と思ってもらえますように……
私の願いが届けばいい。
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