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しかし私に代わり、彼がホテルに連絡を入れると、今からでも大丈夫とのこと。
私はダメだと思い込んでいたため、驚いた。
私たちは荷物を取るのと、ブルースターをいけるために一度彼の家に戻ったが、まず私の目に入ってきたのは赤い鍋だった。
もしかすると、彼が部屋を出ることを薦めてきたのは、このせいなのかもしれないと思ってしまう。
先ほど安心したはずなのに、胸が嫌に動き出す。
しかし彼が明るい様子で「お湯に浸けるよね?」と言うので、視線の先を彼に変えた。
彼の表情はにこやかだ。
「はい……ありがとうございます」
私たちはブルースターを飾れるような花瓶を買ってくることを忘れていた。きっと、私が浮かれていたせい。
早く元気にさせたいと思い購入したのに、これでは意味がないと、一瞬落ち込んだのはつい先ほどのことだ。
ブルースターは新聞紙などで花を巻き、ぬるま湯に浸けると、わりとすぐに元気を取り戻す。
それを彼がホテルに電話をし終えたあとに伝えると、彼の部屋の小さなキッチンたらいの中に湯を張り浸け、とりあえず明日までは空いたペットボトルを切り花瓶にしようと提案をくれた。
彼はキッチンが背になり見えなくなるほうのダイニングチェアを後ろに引き、私に座るように誘ったので、甘えて座る。
「ちょっと待っててね」
「はい……」
たぶん、赤い鍋を見えなくしてくれたのだろう。
彼の気が回る行為に、嫉妬を覚えていた私の胸が苦しく痛んだが、それは彼が好きだからだ。
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