ヒメクルミ

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それはまるで球根のような色の見た目をして見えたため、エイリーにカゴを置いていたときに、誤って入ってしまったのではと考え、手を伸ばした。 すると彼はいつの間にという感じで、私の後ろに立っていて、「それ、姫胡桃なんだ」と言った。 それからすぐ、茶色のものを取り私に見せた。 私から見えていた部分は姫胡桃の下の部分だった。 たしかに彼の言う通り、それは姫胡桃だ。 上の方には茶色の小さな紐がついているため、すぐに携帯のストラップだと気がつく。 姫胡桃は日本に自生している胡桃で、一般的には食用として作られている。 エイリーでも前に一度、観賞用として取り扱ったことがあったのだが、殻が滑らかで薄く割れやすく、割ると断面がハートの形をしているので、小物にすると可愛くなるという理由から、すぐに売りきれてしまった。   「……姉にもらったんだよ」 「優奈さん、ですか……」 「うん。姉の家に最後に行った日、幸せのお守りにって」 たしかにハート型の胡桃は幸せのお守りとして、知られている。 だがどちらかというと、私の中では子孫繁栄のお守りというイメージが強い。 現にアメリカでは子孫繁栄の意味を込め、結婚式の際に胡桃を撒く習慣があるそう。 「俺、正直はじめこの実がが何かわからなかったから、袋に入れたまま玄関の棚の上に置いたままにしていたんだけど、いとこがこっちに仕事で来たことがあって、そのときに姫胡桃だって教えてくれたんだよ」 「……いとこって、晴臣さん……ですか?」  いとこといえば晴臣さんのイメージが強い。 彼の話の途中なのに遮るように尋ねてしまう。 だが彼は少しも嫌な顔はせず、「ううん。来たのは晴兄の姉だよ。ファッションバイヤーをしてるんだ」と教えてくれた。 そこで私は、前に優奈さんに見せてもらった写真の女性かもと、ピンときた。 一瞬のことだったが、彼を好きな今、私にとってあの写真は心の中にちゃんと留まっていた。 「……優君とその方……写真撮りました?」 「え?あぁ、たしか……うん」 「……そうですか……」 私の中で写真の彼女と、彼の話すいとこが結び付いた。 また一つ不安がなくなる。
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