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「気持ち悪いって思われても仕方がないんだけど、あのときから……胡桃を好きだったんだと思う」
「……え」
「はじめて胡桃を見たとき、綺麗な子だなって思ったんだ」
彼にそう言われて、私は恥ずかしくなり瞳を多く瞬かせた。
それに彼は少しだけ自信を取り戻したような、そんな表情を見せて、英字紙に包まれたブルースターを優しく脇に挟むと、空いた手で私の前髪を触った。
「図書館の窓は大きくて、昼間は太陽の光がよく入ってきてたんだけど、いつも胡桃の茶色の髪の毛を眩しく光らせてたんだ」
私は思わず彼の触れる前髪を見るようにして、目線を上げた。しかしもちろん、上なので見えない。
「とても柔らかそうで綺麗で……ずっと触ってみたいなって思ってた」
「……」
彼が私の髪の毛を褒める理由は、実家が美容室だからだと思っていた。
しかし、違ったよう。
「気がつくと図書館に行く度に俺は胡桃を探していて、見つけたときは嬉しくて、こっそりと近くに座っていたんだよ」
そんなこと、全然気がつかなかった……
彼のようなカッコいい人に気がつけないなんて、私はあまり周囲を気にかけないのかもしれない。
「でも突然、胡桃が図書館に来なくなったんだ。そのときはすごく寂しかったのを覚えてる。ただ社会人になってから電車でも、胡桃を見かけたこともあったけど、一度きりで……
それからしばらくして、花屋で胡桃が働いてるのを知ったんだけど、すごく驚いたよ」
図書館に行かなくなったのは、短大の入試試験が終わってからだろうか……
たしかにその頃、気が抜け図書館に足を運ばなくなった。
それに電車の中でも目撃されていただなんて、驚きだ。
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