ラナンキュラス

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そんな私だが、遠距離恋愛のため、彼と身体を合わせた経験はまだ両手で数えられるだけ。 そのため、一つ一つを、ちゃんと思い出せる。 途中の意識は別として…… ただ、どの記憶も彼は優しい。 私は他の人がわからないため、比べることができない。 けれど、彼と身体を重ねる時間、私はじゅうぶんすぎる、と言ってしまいたくなるくらい、優しく優しく彼は私を扱ってくれる。 今日もそう。 私自身がまるで壊れ物だ、と勘違いしてしまうくらい、彼は大切に私に触れる。 私の服をとるのも、私の背に彼の腕を差し入れるのも、私の素肌に触れるのも、全部…… あまりに優しいから、彼と結ばれた日は、はじめこそ怖さで唇が、全身が、わなないたが、私は怖さを忘れたくらい。 恐怖を感じたのははじめの日だけで、それから感じたのは照れと快楽、そしてとてつもない幸福感だ。 今日の彼も私に触れながら「胡桃、可愛い」と、繰り返し言った。 それは彼の無意識の告白と知ったため、特に今日は胸が熱かった。 この部屋に来たのは朝だったのに、離れていた約ひと月を埋めるように抱き合っていたから、私たちがベッドを出た頃はもう昼になっていた。
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