ラナンキュラス

29/33
前へ
/33ページ
次へ
彼の声には心がこめられている。 「家に着いたら、すぐに写真を出して飾るよ」 彼なら本当に、何より先に写真を出しそうである。 そのため私は「ありがとうございます。でも、帰ってすぐじゃなくてもいいですよ……」と言い、はにかんだ。 「うん……」 彼が微笑む顔を見て、私の身体に確かな安堵感が広がる。 すると彼は「せっかくだから、このリボンも入れられない?」と言って、ラッピング袋を包んでいるリボンに触れた。 フォトフレームの中にはもう入れ込む余裕はない。 「……え、あぁ」 そこで私はリボンを解き、彼の手にあるフォトフレームを抜き取り、四角の角下に緩やかに斜めにかけて見せた。 「こんな感じにとめて飾るくらいしか思い付かないです」 「じゃあそうしてもらおうかな」 「いいんですか?」 「うん」 私は彼の気持ちが嬉しくて、胸がいっぱいになる。 そのため、私自身がチョコの袋を開けてしまったことに気づいていない。 「あとでつけますね」 「うん、ありがとう」 私たちは、小さな約束を交わす。 すると次に、彼が開いた袋を覗き、中に手を入れチョコを取り出そうとした。 緩やかだった私の心は安堵する前に逆戻りする。 とうとう彼がへんてこなチョコを手にしたのを目にすると、ますます焦った。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

185人が本棚に入れています
本棚に追加