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彼の手に乗るのは生チョコのほうで、私が最後に見たときとあまり変わりがない。わずかに固まったことで小さくなった気もするが、へんてこな形のまま。
やはり、少しも美味しそうには見えない。
甘いものは好きな私だが、とても手を伸ばしたい、なんて気持ちにはならない。
優君はチョコをまじまじと見つめているが、きっと私と同じことを思っているはず。
「ゆ、優君……」
しかし、あまり見られてもますます焦るばかりで困るため、彼を呼ぶ。
「ん?」
彼は優しい顔を私に向ける。
とにかく彼の視線を私へ変えることに成功した。
しかし、何も言うことがない。
頭の中で、何を話そう、と考えるも思い付かない。
「これ生チョコだよね?俺が好きだから作ってくれたんでしょ」
「あ……はい」
たしかにそうだが、よくこの見た目でわかってくれた、と感じてしまう。
「食べていい?」
「え……!」
彼にあげるために作ったのだが、その言葉には驚きの声をあげてしまう。
すると彼はおかしそうに、笑った。
それに恥ずかしくなり、顔を俯きがちにして、彼を見つめてしまう。
「味にも自信はないんです……」
「うん。でも美味しそうな匂いがするよ」
「……美味しくなかったら無理して食べないでくださいね」
私がそう言うと彼は何も言わずに楕円形のチョコを口元に持っていき、ゆっくりと半分かじった。
私は心で“あぁ……”と言いつつも、彼の表情をまじまじと覗く。
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