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彼の手にあったチョコが消え、つまんでいた指についたココアパウダーを舐めとる仕草も、なんだか色っぽく映る。
「美味しかった、ありがとう」
「い、いえ……」
私が首を小さく横に振ると、彼が今度はカップケーキを取りだし、「これもいただくね」と言った。
それは中こそ萎んでいるが、ハート形の容器を使って焼いたことと、チョコペンや粉砂糖を使用しているため、生チョコよりは格好がいい。
しかし、下手くそなのは丸わかりだ。
彼は同じくカップケーキもまじまじと見つめる。
「ハートって嬉しいな」
そして、嬉しそうに言った。
「……そ、そうですか?」
「うん」
彼に嬉しい、と言われると、私も嬉しい。来年もハート形を使おうと密かに決め、「でも、これも味が自信なくて……」と言った。
すると彼は「生チョコ、美味しかったよ」と言って、私に微笑む。
だがすぐに「あっ……」と言って、表情を固くした。
「え……?」
彼は一体いきなりどうしたのだろう。
私は驚きで瞳を瞬かせた。
「写真撮るの忘れてた……。嬉しくて早く食べたいって思ってたから……」
彼はいかにもしまった、という顔をしたが、「これ、いただく前に写真撮らせてね」と言って、私が頷くより先に、彼の携帯があるテーブルへ行き、私のへんてこなチョコ達を袋の上に並べた。
そして、一つなくなった生チョコとカップケーキをすべて出し、写真におさめる彼の姿を私は見つめる。
なんだかその姿は、本当に彼らしい。
私は不安を忘れて、頬を緩めた。
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