ラナンキュラス

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彼は一枚だけでなく、何枚もシャッターを押し、すべて並べるとますます不格好に感じるチョコ達を、写真におさめ続ける。 私はあまりに撮る彼に「もうそれくらいで……」と、駆け寄ったくらいだ。 それから彼は、先ほど食べようとしていたカップケーキを「美味しい」と言って、食べてくれる。 その顔は嘘ではなさそうで、私はホッとした。 「胡桃も食べる?」 彼は次に再び生チョコを手にし、私にそう尋ねた。 私は彼のすぐ隣に座っているので、とても近くから顔を覗き込まれる。 しかし、私は答えに悩んだ。 すると、彼が「少しだけ」と言ってチョコを口元に近づけてくる。 私は反射で僅かに口を開け、侵入してきたチョコを少しだけかじった。 口の中に、柔らかな甘いチョコの味とほろ苦いココアパウダーの味が広がる。 そして、彼が好きだと言ったクルミの感触も。 「美味しいでしょ?」 するとすかさず彼に尋ねられ、私は「……チョコでした」と言った。 彼は笑ったがすぐ「口、ついてるよ」と言って、私が唇に手で触れる前に、彼が舌で優しく舐めとる。 一気に私の身体が熱くなるのを感じた。 「胡桃、ほんと、ありがとう。大好きだよ」 彼はそう言うと、残りのチョコを袋の上に一旦置くと、私を抱き寄せた。 彼からは、いつもと違うチョコの香りがした。 私のバレンタイン作戦は、どうやら成功した模様。 こんなに喜んでくれるなんて、想像以上で胸がいっぱい。 でも、来年こそは、見た目のよいものを作って、彼をもっともっと喜ばせたい。 でも、その前に今は…… 私は彼の温もりに身体を預け、幸せを感じた。 ーendー
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