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岡田さんの顔から冷たさが消えた。
代わりに瞳の色に落胆が多く混じるように感じた。
私は彼女を見つめていられず、なんとなく優君を見つめてしまう。
彼は真剣な表情でいたが、私が彼を見上げているのに気がつくと、優しく表情を緩めたが、すぐに岡田さんに視線を向け「うん」と言った。
「とりあえず、今日は帰ります」
すると岡田さんがそう言って身体を反転させると、優君が「昨晩、夏井には伝えたんだけど、俺この子と結婚するんだ」と言った。
岡田さんは再び身体をこちらに向けた。
私の口からは「……え」という声が漏れる。
たしかに約束はしたが、今、岡田さんに伝えることなのか、と驚いたからだ。
「岡田さんにも伝えておきたくて」
彼はとても真剣な表情で、岡田さんを見つめている。
私は優君が今、ちゃんと彼女をフッたのだとわかった。そして私を安心させるために言ったのだということも。
「そ、そうですか」
私はゆっくりと岡田さんに視線を向けた。
彼女は動揺しているように見えた。
赤い鍋が振動で音を立てる。
きっと鍋を持つ手に力を込めているせい。
それでも彼女の顔は悲しそうには歪まない。
すると私が見つめすぎていたためか、岡田さんと視線が絡んだ。それから彼女は私たちのほうへ一歩近づいた。
「彼女が現れる前にもっと積極的にいけばよかった」
岡田さんの言葉に反応したのは私だ。
「……え」
「無理矢理押し倒せばよかったな。もっとおせばいける手応えあったのに……」
私にとって彼女の言葉は刺激が強すぎる。
そのため「押し倒す……」と、小さな声だが復唱してしまった。
すると優君が「岡田さん……」と呆れたように言ったため、彼女は口元を緩めた。
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