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しかし彼は何も言わない。
私は自身の言い方が悪かったと思い、「あの、プレゼントさせてください」と言った。
焦ったことで彼に尋ねるように言ってしまったことが失敗だったように感じたためだ。
すると彼は「あぁう、うん……」と戸惑いがちに言った。
これで彼にお礼ができる、と私は先ほどの緊張を忘れてはいないが、ホッとした気持ちも沸き起こる。
これで、きっと正解だったのかもしれない。
彼はというと、私に近づけていたアイスクリームのカップを私の側から離し、膝に置いた。
その中身はもうほぼ溶けている。
だが彼の視線はアイスクリームのほうにあるのに、まるで見えていないよう。
しかしせっかく彼が買ってくれたアイスクリームなので、私はカップを控えめに奪った。
彼の視線が私に向く。
「優君……アイス溶けちゃう前に食べてもいいですか?」
今度は私が彼の顔を覗く番。
「ごめん、ほとんど溶けてるね……無理して食べなくていいよ。また買ってこようか?」
するとそんな彼らしいことを言うため、私は大きく首を横に振った。
それからアイスクリームをスプーンですくい、食べるのを再開させる。
溶けたアイスクリームは甘いシェイクのよう。
それでも私はすべてお腹に入れた。
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