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Eiry の窓の隙間から、五日前は点灯されていなかった煌めく原色のネオンの光が見え、私は意識をとられしばらく見つめていた。
時刻は20時前と、店はもう閉める時間に近づいている。
「胡桃ちゃん、どうしたの?ぼーっとして……」
私がぼんやりとしていたためだろう、すぐ横に店長が立ち、私の顔を覗き込んだ。
「あ、いえ……すみません」
私はハッとし、彼から一歩離れ頭をほんの少しだけ下げた。
「ううん。今日は忙しかったもんね。疲れたでしょ」
店長の手が私の頭に乗って、一度優しく撫でて離れた。
「あ、いえ、大丈夫です」
私は気を遣わせたと感じ、首を左右に振った。
私が優君に会いにシンガポールへ行っていたのは、昨日までのこと。
今日から日常に戻り、休みを長くもらったぶんしっかりしなければならないのに、私はつい気が抜け、ぼんやりとしてしまっていた。
店長に指摘されたのは今日初めてだが、治人さんには幾度か「胡桃ちゃん」と、言われ肩を軽く叩かれた。
私がぼんやりとしてしまっていたのは、優君のせい……
「そう?もう帰っていいよ」
店長が笑顔で言ったため、私は「あ……はい。ありがとうございます」と言って、帰り支度をし店を出た。
「綺麗……」
店を出ると、煌めく光がますますよく見え、私は小さく呟いた。
今夜は治人さんが外の鉢を仕舞ったため、私は夕方からは外に出ていなかった。
私はゆっくりと駅まで足を進めながら、優君と歩いたシンガポールの街を思い出していた。
一番に思い出すのは、私の人生初の告白を受け入れてくれた夜のこと。
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