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「でも今度来るときはちゃんと迎えに行くよ」
それは嬉しい言葉だった。
行きの心細さを思い出し、少し泣きそうになる。
「よろしくお願いします」
「うん」
いよいよ家を出る時間になると彼は、私を抱き締めてたくさんキスをする。
それが彼がシンガポールへ経つ日の朝も私にたくさんキスをしたことと重なる。
別れてしまった記憶が過る。
あの時の寂しさは今思い出しても辛い。
二度と同じことを繰り返したくない。
急に心もとなくなり、彼のピンと張るシャツに、シワを作ってしまうくらい強く握ると、彼が私を安心させるように「絶対会いに行くから」と言った。
「……はい」
結局、私はまた泣いてしまった。
少しだけど……
マンションの下までおりて「いってらっしゃい」と言うと、外なのに彼はキスをくれた。
しかも長く、しっかりと。
おかげで寂しさより恥ずかしさが私を襲い、泣かずに手を振れた。
もしかすると、彼の優しさなのかもしれない。
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