カサブランカ

8/40
前へ
/40ページ
次へ
しかしここで泣いてしまうと、勘違いさせてしまう。 私は両手を顔の横に小さく広げていた手を伸ばし、彼の首の後ろに巻き付け「優君好き」と言って自分に近くした。 彼の匂いが近くなる。 何度も感じたことのある香りだが、今日は特別甘い。 もっと嗅ぎたいため、彼の横顔に私の顔を擦り付ける。 「……胡桃」 彼が私の耳元で私を呼んだ。 ただ名を呼ばれただけなのに、胸が熱くなる。 そして、身体も。 「私は大丈夫ですから、全部もらってください」 これ以上優君に心配されると、私は泣いてしまうかもしれない。 私の腕は震えていた。 「……うん」 そう言った彼の声も泣きそうに聞こえたのは、きっと気のせい。 なぜなら彼は私の耳を優しく食み、「可愛い、好きだよ」と言った彼は、余裕な様子だったように感じたから。 「私のほうが……大好き」 だから私も余裕なフリをし伝えたが、私のドキドキはバレバレだろう。 だって優君は小さく笑った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

165人が本棚に入れています
本棚に追加