134人が本棚に入れています
本棚に追加
「剣山を隠すようにお願いね」
店長が指示を出したので、私は彼を見上げた。
店長の顔は近い。
「はい」
私が頷くと店長が微笑んだ。
私が前、大好きだった笑顔。
胸がドキドキしてやまなかった笑顔だが、今は冷静に見れるから不思議だ。
今の私の胸のドキドキはすべて優君のもの。
もう店長にはときめかなくなっている。
すぐに店長から視線を逸らし、再び手元を見つめると、指示通り剣山を見えなくするよう意識し生ける。
私が生け終える頃、治人さんが出勤してきた。
今日は市場に行かないので朝から店に来たのだが、彼も私と同じで、いけばなのことを気にしたので、今度は私が説明した。
完成したいけばなは店長が持っていくことになった。
私は治人さんと少しの間、二人きりになる。
すると早速治人さんが優君のことを聞いてきた。
「彼とは順調か?」
「はい。おかげさまで……」
私の顔が緩んでしまう。慌てて頬を両手で押さえた。
最初のコメントを投稿しよう!