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「胡桃ちゃん……!」
Eiry の前まで来てくれたのは晴臣さんだ。
彼は私を呼ぶと車に乗るように誘った。
「こんばんは、お邪魔します」
私は慌ただしく彼の車の助手席に乗る。
晴臣さんは前に会った時より髪が短くなっていたが、やはり優君に雰囲気が似ている。
「胡桃ちゃん、久しぶり。今日はありがとね」
「いえ、こちらこそ、お邪魔させていただきます」
私は車を発進させる晴臣さんの横顔を見つめつつ言った。
「いえいえ」
すると晴臣さんが前を見ながら笑う。その横顔も優君を思い出させる。
しかし前のように苦しくはならない。
「シンガポールはどうだった?」
「あ、はい、暖かかったです」
シンガポールへ行ったことはすべて優君に繋がってしまいそう。
そのため、とりあえず簡単に答えてしまった。
「そうなんだ、優奈から聞いてた通りだ」
「はい。あと、お昼間に一度スコールが降ってきて、熱帯特有の気候を感じました」
優君と歩道を歩いている時、スコールにあたった。しかしすぐにやむものだから心配ないと彼に言われ、近くにあった店の軒下で雨宿りした。
その際、晴れ間が覗いた空にうっすらかかった虹が見え、私と優君は「虹……!」と言ってはしゃいだ。
そのことを思い出し、顔が緩む。
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