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すると晴臣さんに「何か楽しいことを思い出した?」と言われてしまう。
気がつくと、目の前の信号は赤で、私は様子を窺われていた。
「あ、いえ……」
優君とのことを思い出していたとは言えない。
だがバレバレだったようだ。
「優斗は元気だった?」
「あ……はい」
「そっか」
晴臣さんは小さく笑うが、きっと私の心を読んでいるだろう目をしている。
「喜んだでしょ、胡桃ちゃんが来たこと」
「……はい」
自分で頷いていいものか迷ったが、喜んでくれたのは真実。
しかし、照れる。
「俺と優奈は付き合っていた頃から俺の仕事の都合でしょっちゅう、遠距離になってたんだ。たまにね、優奈がサプライズで俺の家に来てくれることがあったんだけど、あの時は嬉しかったよ。」
「素敵な思い出ですね」
「男は単純だからね」
「女も単純ですよ」
私が優君のところへ行くと優奈さんに言ったとき、彼女は真剣に応援してくれた。
しかし経験者だとは思わなかった。
わざわざシンガポールに行く前に、店に来てくれた優奈さんは私の気持ちがわかっていたに違いない。
「でも優奈は突然来られると嫌がってたんだよ」
「え?どうしてですか?」
「片付けてない部屋を見て幻滅されたくなかったんだって」
たしかにその気持ちはわかる。
嬉しいけど困る、そんな心情だろう。
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