クロッカス

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見上げると空は、今にも雪が降りそうな寒々しい空気をかもし出しているけれど、私の心はとても温かい。 それは今朝、優君がシンガポールから日本へ帰ってきた、と連絡をもらったから。 優君と最後に会ってからひと月と少しの12月の終わり。 元旦から四日間の休みをもらえる私とは違い、優君は私より早い正月休みをもらっていた。 さすがは大手企業勤めという感じの彼に対し、せっかく彼が帰ってきている今日は、正月アレンジ作りに追われ、仕事を休めない私だけれど、優君は「昼間は会社に顔を出すから気にしないで」と優しく言ってくれた。 だから、今朝は普段より気を遣って、丁寧に髪を結い服装もお気に入りのものを選んだ。 絶対優君のことだから、店の前に現れると思った。 久し振りに会うのだから、可愛く思われたいのが乙女心だ。 だから、何度も姿見で自身の姿を家を出る前にチェックした。 だが満員電車で整えた髪は少し崩れてしまった感があるうえ、風も強いため、髪を手櫛で整えつつ店まで歩く。 今朝は店長が少しの間、配達でいないと聞いていた。 それを忘れていた私は大きな声で「おはようございます」と言い、店に入った。 留守番のことがぬけていたのは優君のことばかり考えていたせいだ。それくらい上機嫌だった。
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