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当たり前だが、優君はいない。
長身でスタイルがよく、爽やかで優しい顔立ちの彼が歩いていたならすぐにわかる。
もし今、彼がいたのなら飛びついてしまいそうだ。
やらなければならない仕事はたくさんあるのに、いつもより水やリに時間を費やしてしまった。
店長はまだ帰ってこない。
私は注文の品であるアレンジの製作に取りかかろうとキーパーの扉に手を伸ばしたとき、店の電話が音を立てた。
伸ばした手を引っ込め、電話へと走る。
「ありがとうございますEiryです」と言って受話器をとった。
「すみません、花束の注文をお願いできますか?」
電話注文があるのは毎日のこと。
でも、動揺してしまった。
「あ、はい、ありがとうございます。お花束ですね……。本日でしょうか?」
「はい、今日の19時にお願いしたいんですが、大丈夫ですか?」
「あ、はい大丈夫です。19時ですね」
「ありがとうございます」
「いえ……。あの、差し上げる方は女性の方ですか、男性の方ですか?」
「……20代の女性です。色はおまかせでお願いします」
話しているとますます心が落ち着かなくなる。
なぜなら、電話の声がとても優君に似ているから。
彼の事を考えすぎて、私は思考だけでなく耳まで優君化してしまったのだろうか。
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