クロッカス

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ここが店でなければきっと言えたかもしれないけれど、やはり仕事中だからかもしれない。 「でもどうして花束を……優君が取りに来るんですか?」 「うん。俺が行くよ」 「そうなんですね」 彼は花束を注文した理由を飛び越して、答えをくれた。彼が来るということにドキドキして、花束の用途を聞くのを忘れてしまう。 「うん。仕事中の胡桃に会えるのを楽しみにしてるね」 「あ、はい……」 彼が店に来る。 その時刻はまだまだ先だが、受話器を持たない手で前髪を整えてしまう私がいる。 「ごめんね、仕事中に」 「いえ、私一人だったので大丈夫ですよ」 「あ、そうだったね」 優君とは離れているため、小さなこともできるだけ話をすることにしている。 今朝の留守番のことも彼には話していた。 「じゃあ、いつもみたいに胡桃に“好き”って言ってもいいんだ」 「そ、それは……」 それは困るかもしれない。 普段の“好き”のやりとりを今しては、頭の中がより彼になってしまう可能性がある。 「会ったときにいっぱい好き好きしてください」 だからそう伝えたけれど、すごいことを口にしたことに気がついた。
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