第一話 置き去りの殺意

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第一話 置き去りの殺意

「ねえ、人を殺したいって思ったこと、ある?」 彼女はそう言いながら、マティーニのオリーブをくるくるとグラスの中で弄んだ。こういう時の女性というのは、ただ話したいだけだ。真剣に返事をするのは正解ではない。聞いているような、聞いていないような体で首を傾げてみせた。 「変よね、突然こんな話」 ひどく悲しいような、しかしそんな自分を滑稽に思って苦笑するような、そんな感情を汲み取りにくい表情で、指先はまだオリーブを突いている。 「私はね、一度だけ、本気で人を殺そうって思ったことがあるの」 新しいマティーニを差し出すと、彼女は手元の空になったグラスの中で弄んでいたオリーブを新しいマティーニの入ったグラスに落とした。二つのオリーブが、グラスの中で重なり合う。オリーブを落とした衝撃で、グラスからマティーニの飛沫が弾けてカウンターに飛び散った。 「こんな感じだった、あの時の殺意って。ぶつかって、弾けてじわっと広がって、汚いの」 頬杖をついて、飛び散ったマティーニの軌跡を指でなぞりながら彼女は語り出した。
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