第一話 置き去りの殺意

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好きな人がいたの。同じ職場でね、とても素敵な人だったの。最初は何気ない話をしていただけ。でも、そのうちにね、その優しさとか、甘い声とか、仕草とか、そういうものに少しずつ惹かれていった。 ただ、よくある話。その人、結婚していたのよ。一緒にいて、話していてもね、よく言うの。うちのやつが、とか、うちの奥さんは、って。 知ってる?二人きりで話をしているときに、奥さんの悪口を言う人、愚痴を言う人は、話をしている相手に気があるんだって。でもね、その人は違ったのよね。この前は臨時ボーナスで、二人で食事に行ったんだ、とか、週末は映画を観に行くんだ、とか。芸能人のこんな人に似ているんだよ、とか。奥さんの自慢。素敵な奥様ですね、っていうと、喜ぶの。そんなことないよ、って言いながら。そんな時の彼の顔もね、可愛らしくて素敵なのよ。とてもじゃないけど、もう夢中だったのよね。 子供はいないみたいでね、作らないのか、できないのか、そこまでは知らないし……ううん、違うわね。聞きたくなかったのね。そういうことに直結する話はね。でも、夫婦二人で楽しく暮らしてるって感じだったわ。そんな幸せ自慢でもね、彼が楽しく話してくれてるだけで嬉しいのよ。
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