第一話 置き去りの殺意

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一番怖かったのは、嫌われること、避けられること。ちょっと冷たい態度なんてとられたりすると、あれ、なんか変なことしたかしら、って。十代の子供じゃあるまいし、馬鹿よね。三十過ぎた独身女がそんなことに一喜一憂するなんて。でもね、曖昧で、妙な空気になると、ゾワっとするの。彼に嫌われてしまったら、もう職場にいられなくなるんじゃないかって。そんなこと全然関係ないのよ?おかしいわよね。でも、いつ頃からか、それぐらい彼の存在がとても大きなものになっていったの。 うちの職場はね、社員が少ないから、二人で話していると少し目立つのよね。だから、彼はその辺りも少し気を使ってくれていたみたい。だけど、私は楽しいから、話に行っちゃうのよね。周りの目もあるから、仕事の話にかこつけて会いに行くの。それで少し話をして、二人の時間を楽しんで、自分の持ち場に帰る。邪魔してすいません、なんて言いながら。いいよ、別に、なんて言ってくれていたけど、本当は面倒くさい女がいるな、なんて思われていたのかも。まあ、私が今何を言っても、彼が本当に思っていたことなんて、わからないのよね。 男性って、どうなのかしら。時々、すごく悩むことがあったの。朝はね、同じ職場の人たちと紛れて楽しく話していて、二人になってもそれなりに会話ができていたのに、ある時間になったら、みんなと一緒に話しているのに急に距離をとって、話し方もなんだかくぐもったような、不機嫌なような、そんな態度になるのよ。単純に嫌われたのなら、そのあとも同じような態度が続くと思うじゃない?だからひどく狼狽して、あまり話しかけない方がいいのかしら、なんて悩んでいたら、帰る頃にはちょっとした雑談も楽しくしたりするの。彼の方から話しかけてくれたり。あれって、なんだったのかしら……
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