第一話 置き去りの殺意

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その日はね、やっぱり二人で少し話して、私は上機嫌だった。もう定時も間近で、彼もやっぱり定時であがると聞いて、少し話せるかしらなんて思いながら、退社を知らせるベルを聞いた。タイムカードを押して、着替えて、でも、彼は来ないの。みんなが着替えて出て行く頃になっても、まだ彼は来ない。私もあまり長居するわけにもいかなくて、部屋を出たの。もしかしたら残業になったのかもしれない、なんて思ってほんのちょっとの淡い期待で、彼の持ち場へ行ってみたの。 誰がいたと思う?私と同期の女性がね、楽しそうに彼と話をしていたの。まるで、いつもの私をみているようだった。でもね、それ以上に、彼がとても楽しそうに、私にはみせない笑顔で、彼女に向き合っていた。彼女が笑うと、彼が照れたように?をかいて。嬉しそうに笑うのよ。そして、私が見ていることに気がついていなかったのね。彼がパッと、彼女の手をとって、すっと自分の?に当てたの。彼女も驚いているようだったけれど、でも嬉しそうに笑って、?に当てた手で彼の顔を包んでいた。 多分、ほんの数秒の出来事よ。だけど私には、時間が凍りついたように感じた。背中に冷たいものが走って、なんとも言えない感情が心の底から湧き出てきた。どうして私じゃないの。どうして彼女なの。いつからだったの?素敵な奥さんを私には自慢して、彼女には何も話さなかったの?嬉しそうに奥さんとの馴れ初め話まで私には披露したじゃない。どれだけ自分が奥さんを大事にしているか、どれだけ奥さんとの時間を過ごしているのか、嬉しそうに話していたじゃない。なのに、なぜ彼女のことは女性として見ることができたの。そんな奥さんを差し置いてまで。 私を拒否してまで。
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