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言いたいことはたくさんある。
訊いて欲しいことだってある。
でも、それをどう伝えたらいいかわからない。
「今日が初デートだったのに、こんな形になっちゃったね」
達巳君が静かに近付いてくる。 ゆっくりと手を伸ばして、私の腕を掴もうとする。
スマホの画面から指を離して、強く目を瞑った。
「触らな――」
文字にするよりも先に、口が動いた。
「凪沙に触るな!」
でも、私が叫ぶよりも先に、誰かが私を後ろから抱き締める。
「え?」
それは訊き覚えがあって、昔手を離した人の懐かしい声――。
「お前……」
「どうして、海斗君がここにいるの?」
「お前らがベラベラとしゃべってるの訊いて、ここだってわかったんだよ」
「海斗……?」
「凪沙はお前なんかにやらない」
そう言って、海斗は私の腕を掴んで歩き出す。達巳君の横を通り過ぎる瞬間、私は唇を噛み締めた。
「さよなら」
短い言葉だったけど、本当の気持ちを相手に初めて伝えた。
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