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バスの乗車口の前には、部長の倉田アリス、副部長の峰村真治、顧問の柳川先生の3人が、それぞれ両腕を組んで、夏実を待っていた。
「ご、ごめんなさ~い!」
夏実は息をきらせ、頭を下げながら走りついた。
「佐原さん、あなたが、最後よ。心配したわ」
柳川先生は、穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「すみません」
「でも、遅刻じゃないよ。ギリギリ、今がジャスト9時だ」
真治は、近くのビルの電光掲示版の時刻を指して微笑んだ。
しかし優しいのは、この二人だけだった。
部長の倉田アリスの両目は吊り上がっていた。
「夏実、どういうつもり!私たち2年生は1年生の模範にならなきゃいけないって、いつも言ってるでしょ」
「は、はい。気をつけます」
「だいたい、いつもあなたは…」
アリス姫の追及は常に厳しかった。
「ま、じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
柳川先生が助けるように言い、夏実はバスへ乗り込んだ。
生徒たちは、前方の席には「幹事」と呼ばれる2年生、中央には「新人」と呼ばれる1年生、後方には女子は「お局さま」男子は「ご隠居」と呼ばれる3年生が座っていた。
「夏実!どこへ行くの?席はここよ」
「あ、レモ!」
後方へズンズンと進みかけた夏実の腕を引っ張ったのは、仲良しの藤木檸檬だった。檸檬は珍しい名前だが本名だ。
本人はこの名前があまり好きで無く、「レモ」と呼ばれたがっていた。
レモの横に、座り、ようやく大きく息をついた。
と、そのとたんに、バスは出発した。
出発すると同時に、先生が立ったままマイクを持って、生徒たちに「おはようございます」と挨拶して、「今日から4日間のコーラス部の合宿を楽しく、有意義なものにしましょう…」と話しはじめた。
生徒たちは一同「は~い」とか「わかりました」とか楽しそうに答えるが、夏実だけは気が重かった。
「夏実、歌は、できたの?」
レモに聞かれて、大きなダンベルを乗せたようにいっそう頭がいっそう重くなった。
「ダメ、出来ない…」
夏実は正直に答えた。
「アイデア、ぐらいは?」
「それも、ナニも…」
「ナニもっ!」
レモが大きな声を出すと、部長として、スケジュールを説明しているアリス姫から睨まれた。
「ちょっと、静かに聞いて下さい」
「は、はい」
「すみません」
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