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首をすくめて謝る二人に向かって、3年の隠居・松合は「また、カンキツコンビかよ。2年になっても、変わんねーなー」と呆れて、バスの中の笑いをとった。
夏実と檸檬は、その名前を「夏ミカン」と「レモン」に引っ掛けて、1年の新入生の頃から上級生に、「柑橘コンビ」と名づけられていた。
「はあ、ホントに、どこどこまでも、ダメだ、あたし」落ち込む夏実の肩にふれたレモは、
「わかった。後でゆっくり話を聞いて、対策を二人で考えよう」と励ました。
夏実たちを乗せたバスは川崎から「東京湾アクアライン」に入った。
「アクアライン」は、川崎から<海ほたる>パーキングエリアまでは海底トンネルがエンエンと続く。
「この道は、あたしの人生のようだわ…」
何しろ、9キロを超す海底道路トンネルは世界最長レベルだ。
「暗いのが続く、トンネル人生…」
窓の外に光る黄色やオレンジの照明灯を見ながら、夏実は、永遠に海の底のトンネルから出られないような自分の人生に絶望しかけていた…。
<海ほたる>から見わたす海は、青く輝き、風に白波が立っていた。
「…だからぁ、元気だしなっ、て」
レモは、夏実をそう言ってはげました。
「でも…、歌を作ろう作ろうと思っても、どっかで聞いたことがある歌詞しか浮かばないのよ」
夏実は目を強くつぶり、頭を横にイヤイヤするようにふった。
「だから、もう作るのやめようかと…」
パーキングエリアでの30分のトイレ休憩。
アクアラインは川崎から木更津まで一気に向か
っても良い距離だが、生徒たちの希望もあり、途中でバスから降りて海を見ながら休憩を取るのが、毎年の恒例だった。
レモは潮風に長いサラサラの髪をなびかせながら、
「モノを創作するのは、だれでも大変だって」
と微笑んだ。
「レモも?」
「そうよ、あたしだって、小説を書いてて、いっつも才能無いな、って思うもの」
レモはファンタジー小説を書くのが趣味だった。そして書いた物語をネット上の小説投稿サイトに載せていた。ペンネームを使っているので、学校の他の人たちは知らないが、夏実だけは作品名を教えてもらって、いつも読んでいた。
「レモは才能あるよ。面白いもん、レモが書く小説。あたし、更新を毎回、楽しみにしてる」
夏実は、持っていたスマホの「投稿小説サイト」のレモの作品を開こうとした。
『シルヴィ王女の冒険』、ペンネームは「金柑」とやはり柑橘系だった。
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