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優等生のアリス姫の作品らしく、少し気取った歌詞と、明るく平易なミディアムテンポの曲で、とりたてた個性は少ないものの、イヤミも無いので誰からも文句が出なかった。
「じゃあ、今年は『青春の光』で良いですね」
副部長の真治はアリス姫を援護するように、皆に念押しした。
しかし、夏実は何を思ったのか?
いや、たぶん何も思わなかったのだろう。
少なくとも、深い考えはまったく無く、思いつきで、とっさに夏実は右手を上げた。
「あら、なあに、佐原さん、何か意見があるの?」
アリスは動揺をみじんも見せず、夏実に反応した。
「あの、あたしも曲を作りたいんですが、いいですか?」
「え?」
居合わせた部員たちは、ざわめいた。
「でも、締切は夏休み前だから今日までよ。もう出来ているの?」
「いえ、作ってるんですが、まだ納得できなくて。途中なんです。でも、合宿までには、作ります」
「合宿の1日目に、間にあいますか?」
峰村は、事務的に、しかし温かくたずねた。
1曲でそのまま決まるよりは、何か提出してくれたほうが嬉しい、という空気のある言い方だった。
それはあくまでも、「討論無しよりも、皆が討論すれば、コーラス部のメンバーがそれぞれ自分の意見を考えたり、発言することで、音楽センスが向上する」という副部長らしいマジメな意図があっただけなのだが。
真治の温かさが単純に嬉しかった夏実は、調子に乗って答えてしまった。
「いえ、今のアイデアに、合宿中に浮かんだインスピレーションをプラスして、練り直したいんです。そして、合宿の最後の夜には、もっと良くなった歌詞、曲までは出来なくても歌詞だけは皆さんに発表ができると思います」
おいおい、調子に乗り過ぎだろう。
と夏実は自分で自分に突っ込みたかったが、スラスラと口から出まかせが出てしまった。
横に座り、これまでの成り行きを静かに見守っていたレモが、心配になり小声できいた。
「夏実、歌のアイデアって、ホントに、もうできてるの?」
「ううん」
まだ、アイデアも、何も、無かった…。
「え…?」
レモは絶句した。
「わかりました。では、最終日まで待つことで、どうですかね?」
何も知らない真治は、みんなと、アリス姫を顔を見回しながら、たずねた。
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