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倉田アリスは、「アリス姫」というニックネームからわかるように、プリンセスというか、お姫さまというか、もっと正直に言えば「女王さまキャラ」だった。母親は音大出の声楽家、父親は弁護士。
学園内でも1、2を争う美貌で、成績はトップクラスだった。
母親ゆずりらしいソプラノの美しい声で、真治とは一緒にしばしば、パートのソロをまかされることがあった。
テノールとソプラノ。美男美女。王子さまとお姫さま。
サークル内でも学年の中でも「お似合いの二人」と思われていたが、二人は付き合うところまではいってないようで、真治の方だけが熱が高かった。
そして、その真治に憧れている女子生徒のひとり、その他大勢のひとり、が自分だった。
アリス姫も真治が好きで、相思相愛ならば、自分などが出る幕ではない。
人の恋路をジャマするほど、粘着な性格じゃないし…。
でも、アリス姫には「慶応大学の彼氏がいる」とか「医学生の彼がいる」いう噂もあり、同級生の真治には冷たいように見えた。
それならば、あたしだって、手をあげて、可能性にかけてみても良いのでは、という気に夏実はなった。
可能性って、いったい何の?
恋の可能性?
歌の可能性?
おそらく、……両方。
良い歌を作ることができれば、副部長の真治に自分の存在を認めてもらえて、ひょっとすると、ひょっとすることもあるんジャマイカ?という可能性だ。
それで、夏実は手をあげた。
これは、アリス姫への「宣戦布告」なのか、それとも、真治の気をひきたいだけなのか…。
二人の間に割り込んで、「あたしも曲をつくる」って急に言いたくなってしまったのだった。
夏実は、そこまでの心の葛藤のプロセスを、正直に親友のレモにすべて言おうか迷ったが、恥ずかしくて言えなかった。 レモはレモで、夏実のそんな葛藤に気づかないのか、優しいから気づかないふりなのか、真治のことには触れなかった。
レモは、夏実が真治にひそかに憧れていることは、とっくにわかっていたのだが…。
「夏実って、今まで歌なんて作ったことあったっけ?」
「替え歌ぐらいしか作ったことない。マジメに作ったことは、ほとんどない」
「でしょ?それが、あんなに自信たっぷりに言うから、あの時はアゼンとしたわよ」
「あたしって、突然、思いつきで、言ったり、やったりしちゃうのよね。先のこと考えないで」
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