第2章 No sugar,a little milk

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気にも留めていなかった実果子だったが、講師を務める外科医が実果子のいる教室へ入ってきた時には驚いた。 実果子が17歳の高校生だった頃、父親の勝が倒れて緊急搬送された事があった。 夕方、実果子と母の君江が家にいて勝の異変に直ぐに気づき、救急車を呼んだ。 アルバイトをしていて遅れてきた1つ歳下の妹、果奈子も息を切らしながらやって来て、家族3人、病院の廊下で不安な時間を過ごした。 緊急処置が終わり、病室に移動して付き添っていた看護師に君江は不安を隠しきれない声で容体を尋ねた。 「直ぐに先生がいらっしゃいますから、少しお待ちください。」 端的に答えられ、もしかしたら重症なのではないかと不安が胸を支配する。 ベッドに横たわる父はあちこちに器具が繋げられなんだか痛々しい。 君江も果奈子も実果子も言葉を失ったようにただ勝の顔をみているしかできなかった。 コンコン。 病室をノックする音が聞こえて、扉がすっと開き白衣を着た医者であろう若い男性が入ってきた。 左胸には"神木"と書かれたプレートを付けている。 黒い縁の眼鏡をかけ、少しウェーブのある長めの髪の男性は主治医の神木ですと名乗った。 正直、こんな若いのが主治医?と思った。 神木は心拍数や脈拍の映し出されたモニタを見たり、点滴をチェックしたりしている。 君江や果奈子の顔をちらりと覗いたが、二人も同じことを考えていただろう。 少し驚いたような顔で神木を見ている。 まだ医師免許を取ったばかりじゃないかと思われる容姿の神木先生。 大丈夫だろうか。 失礼にもそんなことを考えていた時、コンコン、ともう一度扉を叩く音が聞こえた。 直ぐに扉が開き、今度はいかにもベテランといった感じの少し白髪混じりの男性が入って来た。 先ほどと同じように左胸をちらりと見ると"藤堂"と書かれてある。 藤堂はこちら側に目を向け軽く会釈をするとゆっくりとした少し低めの声で話し出した。 「藤堂です。脳外科の部長を務めております。」 藤堂は神木を見ながら更に言葉を続けた。 「主治医の神木はこう見えても沢山の患者さんを見てきています。安心してお任せ下さい。」 その言葉に合わせて神木は頭を下げた。 緊急処置も神木がしたと藤堂は言った。
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