ビターなミルク

第1章 冷めたコーヒー

恭也は未だ膨れっ面でカップを手にし、
「酷いなー。コーヒーはブラックで飲めるようになったよ。少しは認めてよ。」
と冗談めかして言った。
実果子は一瞬何かを考えたようだったが、ふわっと笑って
「そうね。」
と一言だけ言った。
その顔を見た恭也は少し安心したような、嬉しいような顔をして言った。
「ねえ、実果子さん今日仕事休みだよね？二人でどっか行こうよ。」
「だめ。今日はこれからジムだし、それに、外では会わないって言ってるでしょ？私は誰にも情を持ちたくないの。恭ちゃんも最初から分かってたでしょ？わたしたちの関係は…」
「ごめん！そうだった。うん、なんかちょっとだけ認めてもらえた気がして嬉しくなっちゃった。ごめんね。」
嫌な沈黙が流れた。
恭也は傷付いたような顔を見せないように実果子に笑って見せた。
(恭ちゃんともそろそろ潮時かな。ごめんね。わたしは誰も好きにならないのよ。)
恭也とは対照的に実果子の心は冷ややかでそんな自分にも冷ややかな気持ちで、まるで他人でも見ているようだった。
沈黙は二人の間で渦巻いて飲み込むように手を伸ばしても届かないと言っているようだった。