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恭也は目を覚ましてはっとした。
ガバッと身を起こし周りを見渡すと時計が目に入った。
8時。
上がった太陽のせいで部屋は明るく、掛けられたブランケットも助けて体は少し汗ばんでいた。
実果子がすでに出かけた事を理解するのに時間は少しもかからなかった。
今しがた自分が実果子に言ってしまった事を思い出してひどく後悔していた。
一度起こした体をもう一度ソファに埋めると自然に溜息が出た。
あんなこと言うつもりなかった。
そういう事を実果子が望んでいないこと、むしろ避けていたことは最初から分かっていたからだ。
初めて見た実果子は凄く凛としていた。
自立した大人の、全てが完璧な、まるで作り出された人工物の様な印象を受けた。
どことなく人を惹きつける、それでいて人との関わりを必要としていない不思議な人だと思った。
これが世に言う一目惚れなのではないだろうか、恭也はそう思った。
駅員室で実果子が現れた時は内側から殴られた様に大きく心臓が跳ねた事を覚えている。
ー君とは付き合うとかそういうのないからねー
恭也が初めて好意らしきものを見せた時に直ぐに牽制されていた。
「やだなー。そんなんじゃないですよ、全然。」
とっさにそんな言葉が口をついて出た。
違ってたらごめんね、と最初に前置きをされた上で付き合えないと言われ、自分の気持ちも分からない状態のままとっさに否定してしまったのだ。
それでも、恭也は二人で過ごす電車の中の数分間を手放すことはできなかった。
もしかしたら、そんな淡い期待もあったのかもしれない。
それからも実果子には相変わらず見えない線を引かれたままだった。
恭也は気にしているそぶりを見せない様に振舞っていたが実果子にはきっと気づかれていただろう。
恭也は皮肉にも実果子に自分の気持ちというのを気づかされてしまったのだ。
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