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溶けない氷
無言のまま時間だけが過ぎていく。
噴水の縁に少し離れて座っている二人は何ともぎこちない雰囲気を醸し出している。
街灯がまるでスポットライトのように二人を照らしている。
恭也は聞きたいことが山のようにあったが聞いてはいけないのだと思い黙っていた。
聞けば実果子は言ってくれるだろうか?
嫌われるのではないか。
怒って帰っていくかもしれない。
恭也の中の実果子のイメージが崩れ去った今、実果子がどのような反応をするかは全くもって検討がつかず、ただただ夜が更けっていく。
実果子は何も考えていないのかただ前を見つめ甘い缶コーヒーをすっぽりを包み込むように両手で持ち、膝の上にちょん、とおいている。
駅に人はほとんどいない。
何本の電車が駅に到着しただろうか。
ふとそんな事を考えていると恭也の携帯がなった。
その音が合図かのように二人は動き出した。
恭也はポケットに手を突っ込んで携帯を取り出した。
画面には拓海からのコールを知らせる文字が無機質に並んでいる。
実果子は恭也が電話に出るつもりが無いだろうと瞬時に分かった。
すくっと立ち上がり恭也に向き直ると甘い缶コーヒーを持つ手を少し上にあげ
「これありがとう。遅くなったね。電話出てよ。わたし、行くから。」
と恭也に考える間も返答する間も与えないように言った。
その顔にはぎこちなさが浮かび上がっている。
笑顔を一瞬だけ見せて実果子は恭也に背を向け歩き出した。
恭也は立ち上がり実果子の後ろ姿を見た。
その後ろ姿は痛みを伴って恭也の胸をぎゅっと掴むようだった。
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