チーフ・椎名 七海

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チーフ・椎名 七海

優作はオーダーしたカツカレーの旨さに、スマホで午後の営業コースを確認する作業を忘れていた。 カツカレーを半分平らげたところで、ふと店内を見渡す。 社員食堂のハズなのに店内には大学生らしき男女やシニア層、金融機関の制服を着たOLなど実に様々な人が食事を楽しんでいる。 一見しただけでは社員食堂とは到底思えず、店の客層の幅広さとおしゃれなカフェのような店内の雰囲気に疑問を抱かずにはいられなかった。 そんな疑問が優作の頭をぐるぐる巡っている間もスプーンを口に運ぶスピードは衰えずいつもより早く完食していた。 『午後の営業コースは車の中で確認しよう・・・』 と会計台に歩を進めた。 先ほどの若いスタッフに伝えられた金額を支払い店を出ようとした時 「ありがとうございました。又お越しください」 と声が聞こえた。自分への挨拶と確信した優作が振り向く。 そこには先ほど厨房内で後輩に指示を出しつつ自らも完璧な動きで作業していた女性スタッフが笑顔で立っていた。 「久保田製作所の営業の方ですね?いかがでしたか?」と笑顔で訊ねてきた。 近くで見ると、その女性は一層キレイで、しかし可愛くもあり優作は 「旨かったっす。」と無愛想に応えるのが精一杯だった。 「それは良かったです・・・是非又お越しくださいね!」と、その女性。 胸には【チーフ・椎名七海】と刻まれたネームプレートが見えた。 「もちろん来ます。」と全開の笑顔で返せないあたりが、優作自身情けなかった。 「又来ます。ごちそうさまでした。」 と素っ気なく伝えるのがやっとで、忙しいフリをして店を出た。 店を出て暫く優作は【チーフ・椎名七海】という覚えたての単語を無意識に繰り返していた。 好物のカツカレーの旨さからか、チーフ自らわざわざ自分に挨拶してくれたことが余程嬉しかったのか優作は午後の営業をいつも以上に張り切ってこなした。 優作はこの単純な自分の構造が嫌いではなかった。 全ての営業先への納品を終え久保田製作所へ戻った。
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