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同僚の事務職員
会社に戻ると、同僚の女性事務職員・中山絵里が
「お疲れ様でした。先方との新年度の担当交代の挨拶や業務連絡も大丈夫でしたか?」
といつも通りに声をかけてきた。
「お昼は太陽電子の社員食堂で、どうせ好物のカツカレーを食べたんでしょ?美味しかったですか?」
と絵里に訊かれ
「うん。山岸に聞いてたからのぉ。旨かったよ・・・」と優作は返答した。
「チーフの椎名さんは元気にしていましたか?」絵里の問いに、
「初めて行ったからどの人がチーフか分からんけど・・・中山の知り合いなん?」
と優作は咄嗟に必要のない嘘をついていた。
「私、時々あそこでお昼を食べるんです。
食べてるうちにそこのスタッフのみんなとも少しだけ仲良くなって・・・
で、そこのチーフが椎名七海さん。歳は私と同じ32歳。キレイだけどかわいくもあり仕事もバリバリこなす正しくキャリアウーマンって感じの素敵な女性なんです。
あ~七海さんみたいな女性憧れるなぁ~・・・」
と絵里。
さっき笑顔で挨拶してくれたチーフが、目の前の饅頭みたいなのと同じ歳ということより、二人が知り合いと言う真実が優作にはにわかに信じがたかった。
「普段食べ物以外に興味を示さん中山が憧れるとは、俗に言う【イケテル女子】なんじゃのぉ?」
と口には出さず脳内で呟いた。
「明日行ったら、私がよろしく言ってたと伝えてくださいよ・・・」絵里に頼まれた。
普段なら
「何でワシが?知らんよぉ!!」
と返すところ、ステキ女子の椎名チーフとの会話のチャンスを与えてくれたことに密かに感謝しつつ
「分かった!言えたら言うてみるわ」とその依頼を受け入れた。
普段の日常生活で楽しみといえば好物のカツカレーと晩酌の発泡酒くらいしか思いつかない優作だったが、太陽電子産業の社員食堂【スーリール】で営業の合間に毎日昼を食べることはこのとき既に大きな楽しみになっていた。
日頃何事にも無関心・無感動の優作が34歳にしてこんなワクワクした感情は久しぶりに味わう新鮮なものだった。
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