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何か腕に止まった感触があったので見ると蚊がとまっていたので、間髪を入れず叩くとあやまたず蚊は潰れて死んだ。 血は出なかったので、吸われる前だったのだろう。 それから半日ばかりすると腕のあたりがむず痒くなってきた。間に合わなかったか、と思ったが普通の蚊に刺された痒みとはどうも違う。何より痒くなるのが遅すぎる。 しかもだんだん痒い範囲が広まってきた。 腕から肩にかけてじりじりと痛痒い。何だろう、これはと思って見ると、皮膚の一部がでこぼこになっている。 まだ何かわからないのでもっと注視していると、そのでこぼこの出っ張った部分がぶるぶる震えたかと思うと、すっとすぼんだ。中身が抜けたらしい。 その中身が何かわからないまま数日が過ぎた。 数日後、突然、胸のあたりが痛痒いような感覚に襲われて激しく咳こんだ。と、口を押さえた掌にわずかながら血がついている。 胸の奥のむずむずはさらに激しくなり、咳もますますひどくなった。 また血を吐いた。肺結核か?と訝しんで再び手についた血を見て、何かそこに混ざっている物があるのに気づいた。 蚊だ。 胸の奥、肺から蚊が出てきた。 あの皮膚のでこぼこは、蚊の卵だったのだ。それが孵ってボウフラが体内の血の中で成長し、肺の肺胞の薄い膜を破って飛び立ってきた。 そんなバカなことがあるわけがない。そう自分に言い聞かせようとしたが、しかしすでに対外に出た蚊は充分に成長して周囲の血を飛び立つ必要もなく摂取して卵を産む準備を整えているようだった。 私ははたと気づいた。すでに体内に新たに卵を産んでいるのではなかろうか。
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