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水上瑞穂は、文化祭前日でもいつも通り自分の趣味にふけっていた。
彼女の趣味は、読書とオンラインゲームだ。最近では、投稿コミュニティサイトの小説を読むことに熱中している。いわゆる「投稿小説」というものだ。
今の投稿小説は、それを原作に書籍化や映像化されるほど、おもしろい作品が多い。ピンキリはあるものの、興味深い作品は確かに存在する。
インドアな趣味に明け暮れる彼女は、幼馴染みの八幡雅弘から「外へ出て遊ばないのか?」とよく訪ねられるのだが、それは大きなお世話だと思っている。
引きこもりと言われても仕方のない生活をしているのは、重々承知の上だ。しかし、生活スタイルを変えるつもりはない。彼はいつも「人生は楽しむべきだ」と主張している。瑞穂は、それに共感して実行しているだけだ。苦手な人付き合いを無理に克服しようとすれば、楽しめるものも楽しめなくなると思っている。
人間とは、他人が変わってゆく様子や、成長している姿を、第三者目線から見るのを最も好む生き物だ。それは、作品に触れることで体感できる。
万人当てはまるとは思わないが、巨大な敵を相手にとって、主人公と仲間は戦い、時には仲間とぶつかり合って、それでも熱意をそのままに敵を倒して壁を乗り越える姿は、視聴者や読者の心を動かすことはできる。しかし、視聴者や読者は、その作品の中に実際に入って、主人公たちと危ない橋を渡りたいと本気で思うものだろうか。少なくとも、瑞穂はそう思っていない。だから、こうした第三者という立場だから楽しめるものが好きなのだ。ゲームでも、プレイするのは自分だが、実際に動くのは、画面の中の登場人物だ。
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