一章「一日目」

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 その教室に入ると、生徒たちが黒板を見つめている。いや、そのほとんどがスマホで黒板を撮影していた。  保谷は、黒板に目を向けると、ただならない状況だということが分かった。 『バカ』『クズ』『ア保谷』『いじめっ子保谷』。  黒板には、そうした文言が書かれていた。嫌な予感は的中したのだ。  早朝から嫌な出来事である。保谷はこめかみを掻いた。  事態を収拾すべく走り回っていただろうこの教室の生徒が、黒板消しを探していた。 「おい、見つかったか?」 「いいや」  男子生徒はかぶりを振った。「この教室から黒板消しは消えるし、隣の教室から借りたけど、犯人は分からないし……」  文化祭開始前の犯行ということは、学園の内部犯ということになるが、それでもこのマンモス校では容疑者が九百人を超える。教室に鍵はついているが、普段から鍵をかけないため、事実上お飾りとなっている。そのため、容疑者の特定は困難を極めた。 「とにかく、なんとかして消そう。もう文化祭は始まってるんだぞ!」 「分かってるこのままじゃ恥さらしだ! でも、雑巾すら用意できてないんだぞ!」  もめ事が始まりそうだったので、保谷はこの教室を後にした。  直後に来た男子生徒が、黒板消しを持ってきた。そして、事態は収束を迎える事になった。
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