二章「二日目」

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 漢字は八重乃。確かに、保谷や杉田と同じ大根中学校に通っていた。生徒会役員で、聡明な彼女は評判が良かったらしい。だが、学歴重視の親の三葉のプレッシャーに耐えきれず、当時その大根中学で、教師をしていた柴峰光輝先生に相談したらしい。そこで、『ゾロ』の実態を探るように言われ、三葉のプレッシャーというのを口実に夜の街に出た。そこで『ゾロ』に潜入できたのだ。  当時、柴峰先生は実態の掴めない『ゾロ』に手を焼いていたのだ。インテリジェンスな世界観のようになっているが、『ゾロ』が警察の補導から逃れるのが上手いだけなのである。警察の網に引っかからなければ、生徒指導室に情報が行くことはない。  後は、三葉や保谷の言うとおり、投身自殺を図って今も病院で意識不明のまま入院中である。 「柴峰先生、やっぱり綾藤八重乃の事を知ってたんだ」  柴峰先生は、ただの参加者なのか、はたまた三葉の共犯なのか。  どうしようか考えていると、武蔵が屋上に姿を現した。  連行されていく保谷とすれ違う。すると、保谷と武蔵の目が合った。  一般人の目には、連行されていく保谷とただ目が合っただけと思うだろう。しかし、雅弘は違和感を覚えた。後ろ姿だったため、保谷の目は分からなかったが、武蔵は、明らかに初対面を見るような目ではなかった。  これが何を意味するか考えたとき、今までの点と点が、線で結ばれた。 「なんだ。そういうことか……」  雅弘はそう呟いた。 「どういうことだ?」  大村先生が訊いた。 「待って!」  すると、保谷を連行する先生を止めた。「訊きたいことがひとつあるんだけど」  保谷が振り返った。 「なんだ?」 「さっき『こうして復讐をすれば、綾藤は許してくれるだろう』って言ったよね」 「それがどうした?」 「それは保谷の言葉じゃないよね?」  雅弘の言葉に、屋上は困惑に包まれた。保谷は、視線を逸らせた。 「どういうこと?」  瑞穂が訊いた。 「きっと、こう言おうとしてやめたんだよね。『綾藤は許してくれるだろうって、武蔵が言ってたんだ』って」  この場にいる全員に衝撃が走った。この事件に、武蔵竹彦が関わっている。そういうことなのだ。
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