二章「二日目」

40/41
前へ
/68ページ
次へ
 不正解側の名前は、すべてその名簿から選び、暗号を組み立てたのだろう。  花崎学園の生徒約二千人あまりの名前から、七人を選ぶという作業は、相当な根気強さと集中力が必要だ。だが、中高一貫校で生徒数が莫大な花崎学園なら、暗号を組む材料は充分すぎる量だった筈だ。それだけ力が入った計画だということは、この事件を通して、肌で感じた。  武蔵の独白は続く。 「打ち合わせや連絡は、全部病室で行ったよ。病院の面会記録を見れば、俺たち四人だけ異常に回数が多い。調べれば分かるよ。メールや無料通話アプリだと、情報が漏れる恐れがある。集合時間を決めるときだけそれを使ったよ。そして、その病室で誓った。必ずこの計画をやり遂げ、八重乃の無念を晴らすって、全員で……」  武蔵の拳が握られた。  その意志の強さは、今回の事件でよく表れていた。  三葉と柴峰先生による二重の保険で実行された異物混入事件。  そしてもう一つ。沢田裕貴の事件で、カメラを被っていたのは、おそらく武蔵だ。武蔵の耳に、ひっかき傷がある。被り物を外す際にやってしまったのだろう。おそらく、柴峰先生と高橋響子が確保されて、参加者が怯むのを防ぐために、二日目の切り込み隊長役をやったのだろう。  そうして、多くの参加者に紛れ込んで、復讐を目論む本人が直接手を下したのだ。 「なんで、竹彦が全部計画を練ったの?」 「超えたかったからだよ」 「え?」  武蔵が、悲哀な目で雅弘を見つめた。 「雅弘が羨ましかったんだ。勉強も運動もできて、その上性格も明るくて友達は俺の何十倍もいる。対して俺は、何一つ雅弘を超える事なんてなかった」 「じゃあ、竹彦はこう示唆したかったのか。『雅弘、この事件を解いたら、君の勝ちだ』」  武蔵は頷いた。そして、広がる青空を見上げる。 「本当に見事だ。完全敗北だよ……」  武蔵は、目を閉じて、ゆっくりとため息をついた。その姿は、真っ白に燃え尽きたかのようだった。  ここで、一つ疑問だったのは、校長先生の対応だ。校長は、「警察は入れさせない」と言った。  もしかして、本心で言ったのか、それともこの事件の裏を知っていたのだろうか。  雅弘は誰かに訊こうとしたが、武蔵の独白はすべて終わってしまった上に、校長はなにも喋らないだろう。証拠がないのだ。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加