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第3話 真夏は帰路の暗闇で
電車を降りた頃には、空は暗闇に覆われていた。周辺に民家はなく、街灯は何メートルも間隔を空けてやる気のなさそうに道を薄っすら照らしている。
「ここから十分くらいで着くから。」
彼女はそれだけ言い残すとまた無言になり歩き出した。
もうちょっと話してくれてもいいのに。そう思うなら自分から話しかければ良いのだが、話す話題も話しかける根性もなく、どうしようもできずただただ彼女を追うことしかできなかった。
最初はチラホラあった街灯も、だんだんと姿を見せなくなってきて、やがて消えてしまった。
どれほど歩いたのだろうか。後ろを振り向くと、街灯の光は遥か後ろにある。十分と言っていたが、もう三十分はゆうに超えている気がする。さすがに気になった僕は沈黙を破り聞くことにした。
「あのー…、あと何分くらいですか…?」
「そうねー、あと十分くらい。」
でた!昔家族旅行でよく父親に言われてたやつ。さっき十分って言ったのに!もうあと何分歩いてもこの十分が消えることはないだろうな。
うなだれながら歩いていると、ほどなくして彼女が足を止めた。
「ここを通るから。」
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