風の中の銀河

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 その日、帰宅するとさっそくスマホから田代の教えてくれたネット碁会所に接続して、会員登録した。ハンドルネームは名前がかえでだから〈めいぷる〉にした。段級は田代の言う2級ではなく1級にした。見栄を張ったのではなく、強い相手とギリギリの勝負がしたかったからだ。弱い相手に楽に勝っても何の意味もない。  ログインすると、〈醤油だ〉はすぐに見つかった。チャット機能でメッセージを送ってみた。  〈こんばんは。めいぷること秋山かえでです。田代先輩、こんなところにいて受験勉強は大丈夫ですか?〉  なれなれしいし、大きなお世話だろう。送信してすぐ後悔した。  〈こんばんは。受験勉強はしてるよ。でも、ときには現実逃避したくなることがあってね〉  田代にとって碁は現実逃避の手段でもあるようだ。私にとって碁は現実そのものだった。  〈勉強頑張ってください。では失礼します〉  〈秋山さんは対局を頑張って! またね〉  それからすぐに私は初段の人に対局を申し込んだ。雪兎という美しいハンドルネーム。女性だろうか。  一級下の私が黒(※13)。同級同士なら白を持つと六目半のコミ(※14)がもらえるが、互先(※15)ではないからそれもなし。終局してコミがあれば必ず勝負がつくが、コミがない場合は引き分けもありえる。     
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