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「この前、君がお客さんに説明してるのを聞いて、そういうことか、と思ってね」
「そういうこと?」
靴を履き終えた彼が、俺の顔を不思議そうに見上げた。
俺はジッとエアプランツを見つめる。
「水が必要ないなんてことはないんだってこと。少量でも水分は必要なんだって。そうじゃなきゃ干乾びてしまう」
その言葉は、まるで俺自身のことのようだ。
さおりと静流、二人のことを思い出すたびに胸の痛みは消えないけれど、彼女たちを思って流す涙は枯れてしまった気がする。
「今度は、ちゃんと育つといいですね」
彼の言葉に、俺は何も言えなかった。
今更、エアプランツを育てたところで、静流が喜ぶわけもなく、ただ俺自身の自己満足でしかないのだから。
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