3.エアプランツ

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 ドアを開けると、案の定、蒸し暑い熱気が家の中に入り込んでくる。  門扉をあけると、駅の方を指さす。  濱田くんは、少し驚いたような顔で周囲を見渡すと「お邪魔しました」と、小さく頭を下げて歩き出した。  その歩みは、ちょっと心もとない感じがしたが、これ以上、俺に何か出来るわけでもない。  彼の背中を見送った後、俺はすぐに家の中に戻った。  今朝は濱田くんがいたから、まだ仏壇にお茶を供えていなかった。  和室に入ると、やはり、彼が焚いた線香の匂いが強く残っている。  部屋の片隅に、彼が畳んだ布団が置かれている。  今時の若者にしては、ちゃんとしているなぁ、と思いながら仏壇の湯呑に手を伸ばす。  その時、写真立ての中の二人と目が合った。  不思議と自然に笑顔が浮かんできた。 「ちょっと、待ってろよ」  俺はお茶を淹れるために、和室を後にした。
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