2.乾杯

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「すみません。Excuse me(エクスキューズミー).Pardon(パルドン)」  レンが日本語、英語、フランス語をたくみに操りながら、散り散りに客席へ移動する客人の間をすりぬけて、デニスのもとへ駆け寄った。 「いかがなさいましたか?」 「彼女がね」デニスがウィンクしてみせる。そしてふっくらした白い手をひらりとあげて傍らの本人を紹介する。「話があるみたいなの」  レンがコクリとうなずく。 「わたしも乾杯の挨拶に加わらせてもらいたいのよ」  パープルの髪を頭上でまとめたパトリシアがにこにこしている。紫色のパンツスーツ。大きな手を胸に当てて。爪にはメタリックパープルのネイルがきれいに塗られていた。  ええっ、ちょっと待ってよ。デニスさんならミヨの上司でもあるし、ラッシー校長も親しいから、ミヨにもラッシー校長にも承諾してもらったのに。その胸の内が、かたまった表情にありありと浮かんでいた。ダメダメ。プロは表情にださない。そう、そうよ、みんな婚だもの。ミヨとラッシー校長が望んでいるのは、みんな婚。レンは次第に正確な判断ができなくなりつつある。 「ええ。かしこまりました。新郎新婦に確認してまいります」  で、どこかしら……新郎新婦……ああいた!  ちょっと待って、いま写真撮影の時間じゃないのにぃ!
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