1 旅の始まり

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 そしてその後ろで棺を挟むようにして歩いていたのがブロントとアンゾ、フランツを支える双頭であった。アンゾはイアン王に忠誠を誓ったフランツの騎士団長であり、老年となった今でも彼の強靭な意志、決断力と鋭い槍捌きに衰えの兆しは見えない。この強面の老戦士はその妻でさえ泣く所を見たことがないというような男だったが、葬儀の日には顎から涙を滴らせながら、沈黙の中で棺を運んでいた。生涯命を賭して故国と王を守ると誓っていた彼は、そのうち一つを守り切れぬうちに失ってしまったことに、深い悲しみと後悔を抱えているようだった。  一方でアンゾの隣でともに棺を支えていたのが、フランツの宰相ブロントである。  この時既に、ブロントがこの先彼にとっての障壁となるであろうことを、エレンは予感していた。エレンは父の死の喪失感に抗いながらも、葬儀の日のブロントから目を離さずにいた。この宰相が今後フランツと新たな王をどう扱ってゆくつもりであるのか、エレンはそれを見究めようとしていた。  ブロントは実に才能豊かで勤勉な大臣である。エールを追い払うという一事を除き、イアン王の理想と意図を政の上で見事に実現させてきたブロントは、イアン王が健在であるうちからフランツの内政と外交をほとんど一人で総覧していた。そしてイアン王が病に倒れた二年前からは、自然と政治の全権を握るようになった。この有能な大臣の態度に変化が見られるようになったのは、つい一年ほど前からである。     
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