第1縁

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私のアルバイト先はある一点を除けばいたって普通。 広くも狭くもない店内は薄茶色の木目を基調としたテーブル席が六席あって、それぞれ四脚の椅子がセットされている。 縦二列、横三列に等間隔に並べられたテーブル席は、お客様同士の距離も近いのが特徴。 入り口は二つ。紺色の無地の暖簾がかかっている。今はまだ開店前だから、暖簾はないけれど。 二階へ上がる階段があるけれど、そこはお店ではなくここを経営している夫婦の家。 私も実は住み込みで働いていて、そこに住まわせてもらってたりする。 制服は特にないけれど、毎日着物を着て前掛けをして、襷で袖が邪魔にならないように纏めていることが多い。 「景ちゃん、そろそろお店を開けてもらえる?」 「はい。わかりました!」 戸を開いて暖簾を掛ける。人二人が並んで通れる入り口から太陽の光が差し込んで、店内を明るく彩った。 開店と同時に左右それぞれの入り口から、人がまばらに入って来る。 かちゃりとお客様の腰に差した刀のぶつかる音。袴だったり着物だったりと服装は様々だけど、洋服の人は一人もいない。 それもそのはず。 「景ちゃん、もうここの生活には慣れた?」 「この子が噂の未来っ娘か!」 私はここの名物娘。通称、未来っ娘(みらいっこ) このアルバイト先の普通じゃない唯一の点。 「だけどこんな娘が百五十年先から来たとはなぁ」 そう、ここは江戸時代。幕末。1863年の京都の町なのです。
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