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眉をハの字にして無理矢理笑った沖田さんを見て、私の方が泣きそうになってしまう。
これ以上一緒にいたら、絆されてしまいそうで怖い。
「高杉より早く伝えてたら、景ちゃんは俺の物になってくれてたかな?」
「し、失礼します!!」
そんなたらればの話をされてもわからない。
頭を下げてお多福へ戻る。振り返る事はしなかった。
勢いよく店内に入ると、土方さんと原田さんの視線が私へと注がれる。
「遅かったな。総司は」
「ちょっとすみません! 失礼します!」
「あっ! おい!!」
階段を駆け上がり、手ぬぐいで涙を拭いた。なんで涙が出てくるのかわからない。
おまさ達には後で謝らないと。こんな急に、びっくりするよね。
視界の端に映る、黒い大きめの羽織。
新撰組の屯所から送ってもらう時に沖田さんに借りたっきり、返せていない物だ。
今が返すチャンスだけど顔を合わせるわけにはいかない。
トントントンと階段を上がる控えめな足音。外から小さな声で私を呼ぶ声が聞こえてくる。
「景ちゃん……大丈夫? 3人共帰ったけど……。何かあったの?」
「ご……めんね。大丈夫だよ」
心配かけないよう、涙をしっかり拭いて障子を開く。
頬を膨らませて不満そうな顔をするおまさが私を待っていた。
そして、ペチンととても弱い力で私の頬を叩いた。
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